土とともに ‐食の未来は土とともにある‐
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スイーツとしても人気のサツマイモ。夏の暑さと乾燥気味の環境でよく育ち、秋、涼しくなってくると地中にまるまるとしたイモをつけてくれます。千葉県香取市佐原は、そんなサツマイモの全国有数の産地。香取市の土壌は、“関東ローム層”という火山灰が関東平野に降り積もってできた土壌が、サツマイモの栽培に適していたことから、古くからサツマイモの産地として知られてきました。この一大産地でサツマイモを育てているのが、2005年の開設以来、有機農業に取り組んでいるワタミファームの佐原農場です。
サツマイモは、野菜では珍しいヒルガオ科の植物。5月、平均気温が18℃以上になってから、種イモから出てくるツルを切って、苗として植えつけ。生育適温は30~35℃と高温なので、夏に向けて作付けをします。
植えつけ直後はクタッとしていた苗が、だいたい3~5日で活着すると立ち上がり、梅雨明け後、気温が上がると茎葉をぐんぐん伸ばします。
佐原農場のサツマイモは、最初こそ少し周囲の農場より成長が遅いかなと感じることもあるそうですが、この後説明する土づくりにより、夏を過ぎてからの成長力が著しいとのこと。
そして生育の途中、「ツル返し」という伸びてきたツルを地面からはがして余分なイモができるのを防ぐ作業をします。こうすることで養分の分散を防ぎ、株元のイモを太らせます。秋、気温22~26℃の頃になると地中のイモがさらに太って収穫の時期を迎えます。
佐原農場で育てているサツマイモは、ねっとりとした甘さで人気の「べにはるか」。
サツマイモは土壌が肥沃で窒素分が多いと、茎葉ばかりが茂ってイモがつかない“ツルボケ”と呼ばれる状態になってしまいます。そこでたい肥や有機質肥料を多用するのではなく、緑肥作物をリレー栽培することで土づくりをしています。
また、有機栽培の一番の課題は「害虫対策」。サツマイモの害虫である「ネコブセンチュウ」に寄生されると、その名の通り根に無数のコブが現れ、栄養の吸収ができなくなってしまい、サツマイモ栽培の深刻な被害につながることに。有機栽培では殺虫剤は使用できないので、害虫対策にも緑肥作物が活躍します。
緑肥作物とは、土づくり効果のある作物(第22回でも登場)。緑肥作物を育てて土にすき込むと、多くの土壌生物によって分解された有機物「腐植」となり、土壌が元気に。緑肥作物にはさまざまな種類があり、その種類によって特定の害虫抑制などの効果があります。
まず春、マメ科の緑肥作物「クロタラリア」の種を、来年サツマイモを作付けする予定地の全面にばらまきます。マメ科植物の根には微生物「根粒菌」が共生し、空気中の窒素を地中に供給し、土壌を肥沃にしてくれる効果があります。さらにクロタラリアには、サツマイモの害虫「ネコブセンチュウ」の密度を抑制する効果もあります。
その後「クロラタリア」をすき込み、夏の終わりにイネ科の緑肥作物「エンバク」の種を全面にばらまきします。このエンバクも、とくにサツマイモのネコブセンチュウの増殖を抑える効果が高い品種を使用。同時にイネ科の根は地中にグッと刺さるように伸び、土中深くまで耕し、通気性・排水性を高めてくれる効果も期待できます。
このエンバクを年内にすき込むと、翌年の春までに地中でしっかり分解されて、完熟した土壌有機物となり、サツマイモが育つ土が完成します。
そして翌年の5月、いよいよサツマイモの栽培をスタート。サツマイモ苗4万本を、岡田さん含め4人で丁寧に手作業で植えつけます。
除草をこまめに行い、その理想的な土の中でぐんぐんと成長したサツマイモは、収穫後地域のサツマイモ農家の協力のもと、倉庫で低温貯蔵されることによってさらに追熟。さつまいもに含まれるでんぷん質を糖化させることで甘さが増しておいしくなります。
その甘さとおいしさは、翌年の夏ごろまで維持できるほどの品質だそう。
緑肥による土づくりや害虫予防を上手に利用することで、土壌負荷の低減だけでなく秀品率(サイズや形状が優れた農産物の割合)を高め、”極上のサツマイモ“を目指しています。また、6次化の取り組みとして干しいもづくりも始めました。
岡田さんは千葉県内の大学で花卉栽培を専攻し、農業を仕事にしたいという思いを抱き、2007年、ワタミに入社しました。入社後は外食店舗に勤務し、2017年からワタミファームで農業に専念しています。
「もともと農業を志望して入社しましたが、店舗での仕事が想像以上に楽しく充実していました。それでつい、店舗勤務が10年にも(笑)。店舗では、当たり前のことを徹底しておこなう、いわゆる“凡事徹底”の大切さを学びました。このことはもちろん農業にも通じています。また、コミュニケーションの大切さは、店舗でも農業でも同じです。農業も地域あってのことであり、決してひとりでは勝負できません。地域の農家の先輩方から学ばせていただくことが多く、みなさんに助けられていると感じています」
農薬と化学肥料に頼らず、緑肥作物によって土づくりをする佐原農場のサツマイモ栽培。岡田さんは、この農法を実践できることが誇らしい、と語ります。
「農薬や化学肥料を使用する栽培では、どうしても環境にかなりの負荷がかかります。たとえば化学肥料の使用を続けると、土壌生態系が崩れて地力そのものが弱まります。また、過剰な化学肥料は地下水に流れて、海洋汚染にもつながります。わたしたちの栽培ではそうした懸念がなく、健やかで安全な作物をお届けできることに誇りを感じています。いろいろなところで、ぜひ安心して召し上がっていただきたいと思います」