土とともに ‐食の未来は土とともにある‐
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太陽の光をたっぷり浴びて、真っ赤に熟した実をつけるトマト。真夏の野菜というイメージですが、じつは南アメリカのアンデス高原原産で避暑地のような冷涼な気候を好み、暑くてじめじめした日本の夏が苦手です。高温多湿だと味がぼけやすく、実が割れることもあります。
そんなトマトの栽培に適しているのが、北海道です。春から夏にかけての日照時間が長く、湿度が低いため病虫害にあいにくく、昼夜の寒暖差により味が凝縮したおいしいトマトが育ちます。
北海道の中央部に位置する上川郡当麻町の「当麻グリーンライフ」は、1998年に設立した有機農業に取り組む農業生産法人。有機栽培のお米や、トマトを主力商品とし、加工から顧客への直接販売まで自社で取り組んでいます。生産者自らが主体となって農産物を生産し、加工によって価値を高め、販売することを農業の6次化といいますが、その概念が広まる前より6次化の仕組みづくりに取り組んできた生産者です。
2004年よりワタミグループに参加。ともに有機栽培の拡大に尽力しています。
トマトの種まきはまだまだ寒い2~3月。小さなポットに種をまき、保温しながら約2か月かけて苗を育てます。4~5月、本葉が7枚~12枚くらいになり、最初の花が咲いた頃に畑に植えつけます。葉3枚ごとに規則的に花房が付くのが特徴で、開花後花びらが散った後に実が膨らみはじめ、結実からなんと約40日もかけて実を赤く熟します。
もともと雨がほとんど降らない高地で育ってきたトマトは、多湿が苦手な一方、乾燥には比較的強く、空気中のわずかな水分を、茎にびっしり生えた細かい毛でキャッチできる能力をもっています。この毛はトマトの実にも生えています。この産毛によって風による乾燥を防いだり、虫が表皮へ到達するのを防いで害虫除けとするなど、とても重要な役割があります。
水も肥料もじゃんじゃんやらずに少し厳しめに育てることで、この産毛がびっしりと生えて自らの身を守っていくのだとか。
トマトは収穫が始まると新しい花が咲くのと同時に、次々と実をつけます。とくに、農薬を使わない有機農業は除草などの作業も多く、スタッフはつねにフル回転です。
そこで当麻グリーンライフでは、多本仕立てという育て方を採用。一般的なトマト栽培では、主枝を一本で仕立てます。日当たりや風通しをよくし栄養を分散させないために、葉のつけ根から出てくる“わき芽”を手間をかけて全部取り除く栽培方法です。一方多本仕立てとはあえて途中からわき芽を取らず、側枝を伸ばして収穫する方法。多本にすることで、段階的に長くたくさん収穫することができるため、省力化と多収の両方を実現することができるのです。
トマトを多本仕立てにすると、どんどん新しい枝が増えて実がつくため、あらかじめ強い株に育てる必要があります。そのために当麻グリーンライフでは、苗づくりから工夫。なんと種まき後、本葉が1枚出かけたタイミングで地際から根を切り落とし、そこに新たに生えた根で挿し木のようにして育てています。こうすると、“生命の危機”を感じたトマトが何本もの太い根を出し、多本仕立てに十分耐えられる、強い株に育ちます。
当麻グリーンライフのトマトジュースの特徴は、何と言っても「有機栽培100%」、そして「生食用」のトマトから作っていること。通常加工用のトマトは、コストを抑えるために大量に一度に収穫。よって、食べごろのトマトもまだ未熟なトマトも一緒くたになってジュースになってしまいます。
当麻のトマトジュースは生食で出荷するように、ひとつひとつの食べごろを見極めて収穫したもの。そして化学肥料をつかわない有機栽培のトマトは、土の栄養をゆっくりじっくり蓄えます。原料のトマトがおいしければ、当然トマトジュースもおいしくなります。
生食用のトマトを使うことは、農家としてもメリットがあります。トマトなどの青果は鮮度を保てる期限が短く、すぐに販売しなければいけません。需要と供給のバランスによっては、値崩れしてしまったり、出荷しきれなくなることも。また、少しの傷やつぶれでも販売用としては出荷できず、一定のロスが発生しています。この部分を加工の原料に回すことで、栽培したトマトを無駄なく使い切り、生食とは違う価値を生み出すことができるようになります。
当麻グリーンライフ特有の多本立ての栽培ができるのも、小ぶりながら収量が増えるおいしいトマトをしっかり使い切ることができる加工手段を自前で持っているからこそ、といえます。
また、当麻グリーンライフが有機栽培するトマトの品種は「マイロック」。この品種にこだわって作り続けるのも、理由があります。近年糖度の高いトマトの品種が売りだされていますが、マイロックはトマトらしい酸味と糖度のバランスが特徴。生で食べておいしいことはもちろんですが、煮込むことで、マイロックの持ち味である酸味が繊細なコクに変化します。水を一滴もつかわず、2段階に分けてじっくりと煮込んだトマトジュースは、コクと濃厚さが特徴のトマトジュースに仕上がります。
まだまだ生鮮の栽培だけでは、収益を確保するのが難しいのが農業界全体の課題です。
6次化を形にすることで、農業のビジネスモデルを確立するべく取り組んでいます。
当麻グリーンライフのトマトジュースの加工部門を率いているのが、取締役の椎原久幸さん。2002年、北海道の環境に魅せられて大阪府から移住。当初は札幌のIT関連の企業に勤めていましたが、完全に田舎に入り込みたいと模索する中で出会ったのが当麻グリーンライフ。2007年に未経験から農業の世界に飛び込みました。
「大学生の頃から趣味がバイクで、田舎ののどかな風景を見ながら走るのが好きでした。姉が移住した北海道に来てみたところ、“めっちゃ、いい場所や!”と感動しまして(笑)。完全に田舎に入り込みたい、と思うようになり、農業を志しました」
有機農業は、除草作業など手間がかかります。しかし、「守らなればならない農業」と、椎原さんはその思いを語ります。
「もちろん安全安心な食べものへのニーズの高さもありますが、それだけではなく、有機農業は環境と共存しているからこそできること。オーガニックの食品を購入していただくことは、そのまま環境への負荷を減らし、次世代に残すべき自然を守っていくことにつながります。多くの人にこうした価値を感じていただくことは、次世代の子どもたちが生きる持続可能な未来をつくること。環境に配慮した食品を選ぶ方がどんどん増えてほしいと考えています」