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ワタミオーガニック新聞 
第21回Newspaper

美幌峠牧場が目指す、牛にも人にも優しい酪農とは

阿寒摩周国立公園の雄大な自然と隣り合う、広大な牧場

美幌峠牧場が目指す、牛にも人にも優しい酪農とは

北海道の北東部に位置する美幌町。標高525mの美幌峠は、阿寒摩周国立公園の屈斜路湖など雄大な景色が一望できる人気の絶景スポットです。この国立公園に隣接する広大な地に、ワタミファームの美幌峠牧場があります。その面積は、なんと約300ヘクタール(東京ドーム約60個分)。牛が自由にたくさん草を食むことができる広大な敷地と自然豊かな環境で、日本ではわずか2%程度しかない「放牧型酪農」を行っています(冬期は牛舎で飼育)。

美幌峠牧場では現在、約330頭の牛が飼育されていますが、牛1頭が毎日食べる牧草の量はなんと1日に約50㎏にものぼります。人間が消化できない草(繊維質)を、牛はなぜ消化・吸収し、栄養に変えることができるのでしょうか。その秘密を探ってみましょう。

牛が草を食べて成長するのはなぜ? 秘密は4つの胃袋に

牛が大量の牧草を食べて大きな体に成長し、乳を生産する、その秘密は胃袋にあります。実は、牛には4つの胃袋があり、食べ方も独特です。人は食べたもの飲み込むとすぐに胃液を使って胃で消化しますが、繊維質の多い草はそれでは消化できません。そのため、牛は複数の胃を使い一度胃で分解した後にまた口に戻して、再び咀嚼してからまた胃におくるという工程を繰り返し、時間をかけて消化します。この繰り返す食べ方を反芻(はんすう)といい、牛や羊、山羊などは反芻動物と呼ばれています。牛がいつまでも口を動かしているのを見たことはないでしょうか。何度も口で咀嚼するため、ずっと口が動いているのです。

牛の4つの胃袋

4つの胃袋は、口に近い順に第1胃から第4胃があり、胃全体の約8割を占めるのが「ルーメン」と呼ばれる第1胃です。ここには多くの微生物が生息し、牧草の繊維質を分解・発酵します。消化しづらいものは、第2胃がポンプのように口まで戻し、反芻された牧草が第3胃に進むとさらに細かくされます。しかし、ここでもまだ大きいものは第2胃へと戻され、行ったり来たりを繰り返し、ようやく最後の第4胃で人の胃と同じように胃液で消化されるのです。牛は、このように4つの胃袋と反芻、微生物の働きによって、人間には消化できない牧草の繊維質をエネルギー源として摂り入れているのです。

放牧型酪農が人のためにも、牛のためにもなる!?

本来ならば牧草を食べる牛は、人と食糧で競合することがありません。それでいて、人の食べられる良質なたんぱく質である肉や乳を生み出してくれるのですから、人にとって大切な存在です。ところが、現代の酪農業界では生産効率を上げるために、草食動物である牛に高カロリーな穀物原料の飼料を食べさせ、牛たちが歩き回ることのできない牛舎で飼育、管理する飼育方法が多いのが現状です。これでは牛への負荷が高くなり、牛の健康にもよくありません。

放牧型酪農

また、世界的には人口増加や所得向上による畜産物需要の増加で、人間の食料も家畜の飼料も需要は年々伸びています。
家畜用の穀物飼料栽培のためにも多くの農地が使われるため、環境や食糧問題にとって畜産業が課題とされる一因があります。将来の食糧問題のために、牛が本来の主食である牧草を食べること、放牧型酪農による循環の仕組みを実現することは、牛だけではなく人のためにもなる取り組みといえます。

放牧型酪農による循環の仕組み

育てているのは、牧草地の草をおいしく食べる健康な牛

そんな放牧型酪農を実践している、北海道・美幌峠牧場の福村拓也農場長にお話を伺いました。8年前に食肉のバイヤーから北海道へ異動し、未経験ながら放牧型酪農をワタミファームで確立させた人物です。

北海道・美幌峠牧場の福村拓也農場長

北海道・美幌峠牧場

「美幌峠牧場の乳牛たちは、みなここで生まれ、仔牛の頃から穀物飼料を配合した飼料は与えず、自家生産の牧草を中心とした粗飼料を与えています。この飼育方法なら放牧地の草をおいしく食べる牛が育ちます。というのも、牛の健康と成長に一番重要なのは、第1胃(ルーメン)。食べたものを分解するためには、微生物のエネルギー源として十分な繊維質が必要です。たくさん牧草を食べる胃袋を作るためにも、仔牛から育てなければなりません。また、この牧場では狭い牛舎にいる期間が少ないためストレスフリー。これは安全・安心な生乳をとるためにも非常に大切です」

“極力自然に近い酪農”のかたちを追い求めている美幌峠牧場

“極力自然に近い酪農”のかたちを追い求めている美幌峠牧場
美幌峠牧場では、放牧型にすることで牛の健康寿命が伸び、さらには人の労働負荷も減り、健康的な牧場経営ができるようになったと福村農場長は話します。

「牛のことを徹底的に考えて、放牧型酪農にたどり着いたのですが、そのきっかけは『ワタミらしい酪農って動物福祉なんじゃないか』と考えたから。ちょっとした体調の変化やストレス行動に気遣うようにしたら病気も減って、人でいう医療費も削減されました。それにより生産から加工、販売までワタミグループ内で行う循環型のモデルがうまく回り始めたのです。北海道内の粗飼料を使うことで地域での地産地消にもつながっています」

現在、美幌峠牧場で使用する飼料は99%を国内で賄っています(2022年8月現在)。海外情勢や円高により輸入飼料の量の確保、価格ともに不安定な昨今では、海外の輸入に依存しないことは一つの大きな強みになっています。
今後は、牛の堆肥を地元の農業に還元するなど、昔ながらの知恵と、最新技術を駆使して循環型の酪農モデルを広げていくための 挑戦が続きます。

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